コーチングセッションの進め方――基本フローと時間配分テンプレート
コーチングセッションの5フェーズの進め方と、30分・60分の時間配分テンプレートを解説。フェーズ別の問いかけ例やタイムマネジメント術も紹介します。
セッションが「なんとなく」で終わるのは、進め方のフレームがないから
「コーチングセッションを始めてみたものの、毎回なんとなく話して時間が過ぎてしまう」「予定の時間を大幅にオーバーして、結局アクションプランまでたどり着けない」——こうした悩みは、多くのコーチが一度は経験するものです。
原因はコーチとしての能力不足ではありません。コーチングセッションの進め方 に、再現可能なフレームがないことが問題です。
料理のレシピがなければ同じ味を再現できないように、セッションにも「どのフェーズで、何を、どのくらいの時間をかけてやるか」という設計図が必要です。このフレームがあるだけで、セッションの質は安定し、クライアントの満足度と行動変容率が目に見えて変わります。
この記事では、コーチングセッションの進め方 を5つのフェーズに分解し、30分・60分それぞれの 時間配分 テンプレートとともに解説します。初めてセッションを行うコーチでもすぐに実践できる具体的な問いかけ例やタイムマネジメント術もお伝えしますので、ぜひ最後までご覧ください。
コーチングセッションの基本フロー――5つのフェーズで全体像を掴む
コーチングセッションは、大きく5つのフェーズで構成されます。まずは全体像を把握しましょう。
| フェーズ | 名称 | 目的 |
|---|---|---|
| 1 | チェックイン | 信頼関係の確認と場の安全性の構築 |
| 2 | テーマ設定 | セッションで扱うテーマとゴールの明確化 |
| 3 | 探求・深掘り | テーマに対する気づきと新しい視点の獲得 |
| 4 | アクションプラン | 具体的な行動計画の策定 |
| 5 | クロージング | 振り返りと次回への橋渡し |
この5フェーズは、GROWモデルをはじめとする主要なコーチングフレームワークと整合しています。GROWモデルの「Goal(目標)→ Reality(現実)→ Options(選択肢)→ Will(意志)」を、より実務的なセッション運営の観点から再構成したものです。
フェーズの順序が重要な理由
5つのフェーズには明確な順序があります。チェックインで心理的安全性を確保しないまま深い探求に入っても、クライアントは本音を話せません。テーマを明確にしないままアクションプランを決めても、的外れな行動になるリスクがあります。
各フェーズを順番に踏むことで、クライアントの思考が自然に深まり、質の高い気づきと行動につながります。
セッション時間の選び方
コーチングセッションの標準的な時間は 30分 と 60分 の2パターンです。
- 30分セッション: 集中力を維持しやすく、テーマが明確な場合に有効。週1回の定期セッションや、1on1ミーティングとの組み合わせに向いている
- 60分セッション: テーマの深掘りに十分な時間を確保できる。初回セッションや、複雑なテーマを扱う場合に適している
研究によると、人が深い内省を維持できる集中時間は約30分とされています。60分セッションでは、フェーズ間にマイクロブレイク(10〜15秒の短い沈黙や要約)を挟むことで集中力を維持できます。
30分セッションの時間配分テンプレート

短い時間だからこそ、分刻みの配分が重要です。以下のテンプレートを基本形として活用してください。
| フェーズ | 時間 | 配分 | やること |
|---|---|---|---|
| チェックイン | 3分 | 10% | 近況確認、前回の振り返り |
| テーマ設定 | 4分 | 13% | テーマの言語化、セッションゴールの合意 |
| 探求・深掘り | 13分 | 43% | 質問、傾聴、視点の転換 |
| アクションプラン | 7分 | 24% | 行動の具体化、期限設定 |
| クロージング | 3分 | 10% | 気づきの要約、次回予告 |
30分セッションを成功させるコツ
事前にテーマを共有してもらう。 30分セッションで最も避けたいのは、テーマ設定に時間を使いすぎることです。セッション前日までにクライアントから「今回扱いたいテーマ」を一言でもらっておくと、テーマ設定フェーズを2分に短縮でき、探求に使える時間が増えます。
「今日のセッションが終わったとき、どうなっていたら最高ですか?」 この一問でゴール設定を完了させましょう。曖昧なテーマが一気に焦点化されます。
探求フェーズでは「広げる」より「深める」を意識する。 30分では複数のテーマを扱う余裕はありません。1つのテーマに集中し、「それは具体的にはどういうことですか?」「その背景にある本当の気持ちは?」と深掘りする方が、質の高い気づきにつながります。
60分セッションの時間配分テンプレート
60分あれば、各フェーズにゆとりを持たせながら深い対話が可能です。
| フェーズ | 時間 | 配分 | やること |
|---|---|---|---|
| チェックイン | 5分 | 8% | 近況共有、前回アクションの進捗確認 |
| テーマ設定 | 8分 | 13% | テーマの探索、優先順位づけ、ゴール合意 |
| 探求・深掘り | 28分 | 47% | 多角的な問いかけ、視点転換、感情の探求 |
| アクションプラン | 12分 | 20% | 行動の具体化、障壁の洗い出し、サポート設計 |
| クロージング | 7分 | 12% | 気づきの統合、セッション全体の振り返り、次回テーマの仮設定 |
60分セッションならではの深め方
60分セッションでは、探求フェーズをさらに2つのパートに分けると効果的です。
- 前半14分(探求A): クライアントの現状認識を広げる。「他にはどんな側面がありますか?」「周囲の人はこの状況をどう見ていると思いますか?」
- 後半14分(探求B): 核心に迫る。「一番大切にしたいことは何ですか?」「もし制約がなかったら、どうしたいですか?」
前半で広げ、後半で深めるこの構造により、クライアントは自分でも気づいていなかった本質的な課題や願望にたどり着きやすくなります。
アクションプランも丁寧に。 60分セッションでは、行動計画の策定に12分を確保できます。「何をするか」だけでなく「何が障壁になりそうか」「誰にサポートを求めるか」まで掘り下げることで、アクションの実行率が大幅に向上します。
フェーズ別の進め方――各パートで何をするか
ここからは、5つのフェーズそれぞれの具体的な進め方と、使える問いかけ例を紹介します。
フェーズ1: チェックイン――安心できる場をつくる
チェックインの目的は、クライアントがリラックスして本音を話せる状態をつくることです。ラポール(信頼関係)が十分に構築されているかを確認するフェーズでもあります。
使える問いかけ例:
「前回のセッションから今日までの間で、印象に残った出来事はありますか?」
「今日のコンディションを10点満点で表すと何点ですか?」
「前回決めたアクションプラン、その後いかがでしたか?」
継続セッションの場合、前回のアクションプランの進捗確認がチェックインを兼ねます。進捗を確認する際は、達成度を評価するのではなく、「やってみてどう感じたか」に焦点を当てましょう。
フェーズ2: テーマ設定――セッションの方向性を決める
テーマ設定は、セッション全体の質を左右する最重要フェーズです。ここが曖昧なまま進むと、探求フェーズで話が拡散し、時間切れを招きます。
テーマ設定の3ステップ:
- テーマの言語化: 「今日は何について話しましょうか?」
- スコープの絞り込み: 「その中でも、特にどの部分を扱いたいですか?」
- ゴールの合意: 「このセッションが終わったとき、どんな状態になっていたいですか?」
テーマが複数出てきた場合は、「今日のセッションで1つだけ扱うとしたら、どれを選びますか?」と優先順位をつけてもらいます。残りのテーマは次回に回すことで、セッションの焦点がぶれません。
フェーズ3: 探求・深掘り――気づきを引き出す
セッションの核となるフェーズです。コーチの質問技法がもっとも試される場面でもあります。
探求で使う4種類の質問:
| 質問タイプ | 目的 | 例 |
|---|---|---|
| オープンクエスチョン | 思考を広げる | 「それについてもう少し詳しく教えてください」 |
| スケーリング | 現状を数値化する | 「理想の状態を10としたら、今は何点ですか?」 |
| リフレーミング | 視点を転換する | 「もし部下の立場だったら、この状況をどう見ますか?」 |
| 未来志向 | 行動につなげる | 「1年後、この課題が解決しているとしたら何が変わっていますか?」 |
探求フェーズで意識すべきは、コーチが話しすぎないこと です。理想的な発言比率はクライアント7〜8割、コーチ2〜3割。コーチの役割は答えを教えることではなく、質問と傾聴によってクライアント自身の気づきを引き出すことです。
沈黙を恐れない。 クライアントが黙り込んだら、それは思考が深まっているサインです。5〜10秒の沈黙は、深い気づきが生まれる前兆として歓迎しましょう。
フェーズ4: アクションプラン――行動に落とし込む
気づきを行動に変えるフェーズです。ここでの具体性がセッション全体の成果を決めます。
アクションプランの5W1H:
- What(何を): 具体的な行動内容
- When(いつまでに): 期限の設定
- Where(どこで): 行動する場面
- Who(誰と): 協力者やサポーター
- Why(なぜ): 行動の目的(モチベーションの源泉)
- How(どうやって): 行動の手順
すべてを埋める必要はありませんが、最低でも What + When は明確にしましょう。「来週の月曜日までに、上司に1on1の時間をもらう」のように、期限と行動を具体化することで実行率が上がります。
スモールステップの原則。 大きな行動目標を設定すると、心理的ハードルが上がって実行できないことがあります。「まず最初の一歩として、何ができそうですか?」と問いかけ、小さく始められるアクションに落とし込みましょう。
フェーズ5: クロージング――気づきを定着させる
セッションの締めくくりです。ここを丁寧に行うことで、セッション中の気づきが長期記憶に定着し、行動変容につながります。
クロージングの3ステップ:
- 気づきの要約: 「今日のセッションで、一番印象に残ったことは何ですか?」
- アクションの確認: 「次回までにやることを、もう一度確認させてください」
- 感謝と次回予告: 「今日もありがとうございました。次回は○月○日ですね」
クロージングで重要なのは、コーチではなくクライアント自身に要約してもらう ことです。自分の言葉で語り直すことで、気づきの定着度が飛躍的に高まります。
セッションの質を高める3つのタイムマネジメント術
時間配分テンプレートを用意しても、実際のセッションでは予定通りにいかないことがあります。ここでは、セッション中のタイムマネジメントを向上させる実践的な技術を紹介します。
術1: 「残り時間アナウンス」で自然にフェーズを切り替える
セッションの途中で時計を気にすると、クライアントに「急かされている」と感じさせてしまいます。代わりに、フェーズの切り替わりで自然に残り時間を伝えましょう。
「とても深い気づきが出ていますね。残り15分ほどなので、ここからはアクションプランに移りましょうか」
この声かけは、時間管理とセッション進行を同時に行う技術です。クライアントの発言を肯定的に受け止めたうえで、次のフェーズに誘導しています。
術2: 「パーキングロット」で脱線を防ぐ
探求フェーズで、テーマから外れた重要なトピックが出てくることがあります。このとき「今はそのテーマではないので」と遮るのは信頼関係を損ねます。
パーキングロット(駐車場)技法 を使いましょう。
「それも大事なテーマですね。今日のテーマとは少しずれるので、次回のテーマ候補としてメモしておきましょう。今日は○○に集中しましょうか」
脱線を否定せずに「保留」することで、クライアントの安心感を保ちながらセッションの焦点を維持できます。
術3: 柔軟な時間調整の判断基準
テンプレート通りに進める必要はありません。以下の判断基準で柔軟に調整しましょう。
| 状況 | 調整方法 |
|---|---|
| チェックインで感情が溢れている | 探求フェーズの時間をチェックインに充当(最大+5分) |
| テーマが明確に定まっている | テーマ設定を短縮し、探求フェーズに時間を回す |
| 探求で深い気づきが出ている | アクションプランを簡潔にし、探求を延長(最大+5分) |
| 時間が足りない | アクションプランを「1つだけ」に絞り、クロージングは2分で完了 |
調整の大原則は、探求フェーズの時間を最優先で確保する ことです。探求が浅いままアクションプランを決めても、表面的な行動にしかなりません。
よくある失敗パターンと対処法

コーチングセッションの進め方で、特に初心者がつまずきやすいポイントを紹介します。
失敗1: テーマが大きすぎて時間切れになる
症状: 「キャリアについて考えたい」のような漠然としたテーマで始めて、探求フェーズで話が広がりすぎ、アクションプランに到達できない。
対処法: テーマ設定フェーズで必ず「スコープの絞り込み」を行う。「キャリアの中でも、特に今一番気になっていることは何ですか?」と具体化する。30分セッションの場合、テーマは「1文で言えるレベル」まで絞ることを目安にする。
失敗2: コーチが話しすぎる
症状: クライアントの発言に対して、コーチが長い解説やアドバイスを挟んでしまい、クライアントの内省時間が減る。
対処法: セッション中、自分が30秒以上連続で話していると感じたら「話しすぎのサイン」。意見を求められても「○○さんはどう思いますか?」と問い返す技術を磨く。セッション後に自分の発言量を振り返る習慣をつけることも有効。
失敗3: アクションプランが曖昧で終わる
症状: 「もう少し考えてみます」「意識してみます」のような抽象的なアクションで終了し、次回セッションで進捗が確認できない。
対処法: アクションプランは必ず 観察可能な行動 に変換する。「意識する」は行動ではない。「明日の朝会で、部下の発言に対して最初に『なるほど』と受け止めてから自分の意見を言う」——このレベルまで具体化する。
失敗4: クロージングを省略する
症状: 時間が押して「では今日はここまでで」と急に終了。クライアントは気づきを整理できないまま日常に戻る。
対処法: クロージングは最低2分確保する。時間が足りない場合でも、「今日一番の気づきを一言で教えてください」と問いかけるだけで、気づきの定着度が大きく変わる。
まとめ――まずは30分セッションのテンプレートから始めよう
コーチングセッションの進め方と時間配分について、5つのフェーズに分解して解説しました。
記事のポイント:
- コーチングセッションは チェックイン→テーマ設定→探求→アクションプラン→クロージング の5フェーズで構成される
- 30分セッションは「探求43% + アクション24%」、60分セッションは「探求47% + アクション20%」が基本配分
- 探求フェーズの時間確保 がセッション成功の最大の鍵
- 時間配分テンプレートはあくまで基本形。クライアントの状態に応じて柔軟に調整する
- まずは30分セッションのテンプレートを使い、3回実践してみることで自分なりのリズムが見えてくる
完璧なセッションを最初から目指す必要はありません。テンプレートを手元に置いて、1回ずつ振り返りながら改善していけば、着実にセッションの質は上がります。
コーチングの質問技法やフィードバックの伝え方も合わせて学ぶことで、セッション全体のスキルを体系的に高められます。BootCast の音声コーチング機能を使えば、セッションの録音と AI 要約でフェーズごとの時間配分を可視化し、改善サイクルを回すこともできます。